【井の頭公園の生き物たち 第37回】ヒト(生態系の中のヒト)

2019.12.13

井の頭池の周りには旧石器時代からヒトが暮らしていたそうです。清らかな湧き水を飲むだけでなく、池の魚を捕り、水を求めて来る動物を狩っていたのでしょう。まだヒトと生き物の力の差はわずかで、ヒトは生態系のほんの一部にすぎませんでした。しかしヒトには、知識を蓄え技術を発達させて、自分たちに都合がよいように環境を作り変えていける高い知能がすでに備わっていました。豊富な湧水を江戸の街の上水に利用していた江戸時代には、堆積物で浅くなった井の頭池の池ざらい(浚渫)も行われたそうです。まだ機械力がなかった時代ですが、組織力はすでに高かったのです。明治以降は技術革新が加速し、ヒトは環境を大きく変えるようになります。とりわけ戦後の高度成長期には急速かつ大規模に改変が進みました。進歩を求めるあまり、自然環境やそこで暮らす生き物への配慮がおろそかになった時代でした。井の頭公園は市街地にかろうじて残った緑地となり、湧水は涸れて池の水が濁り、持ち込まれた外来生物が在来生物を減らしました。ヒトの知能は未来を正確に見通せるほど優れてはいないのです。

それでも、問題に気づき、反省し、やり方を変えることはできます。井の頭公園でも、池の問題を解決するための官民協働の体制が実現しています。今後は池以外の問題にも取り組みが広がることでしょう。自然環境とそこに暮らす生き物を考える場合、それらが複雑に関係し合う「生態系」としてとらえることが必要です。そのとき大事なのは、その生態系にヒトを含めることです。数が増え、大昔と比べるとはるかに大きな力を持つようになったヒトの行動が、他の生き物たちの生存や生活を左右するからです。そもそも、ヒトがいなければ環境問題も外来生物問題も存在しません。多様な生き物たちとの共存を望み、そのような生態系を実現するために多くの人たちが常に活躍している井の頭公園になることを願っています。

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

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(いのきちさん37号 2017年11月15日発行 掲載)