【私と井の頭公園 第18回】はな子は自然の畏怖尊厳を教えてくれる象徴 室伏三喜男/東京都井の頭自然文化園 飼育展示係主任

2020.02.11

室伏三喜男さん(59歳)は、井の頭自然文化園の人気者ゾウのはな子の飼育員である。仕事を離れると名門諏訪流の鷹匠でもあり、常に野生(自然)と接している者として、はな子の存在の意味を語ってくれた。

上野動物園から井の頭自然文化園に異動したのが10年前です。その時「ゾウの飼育だけは勘弁してもらいたい」と思っていたのですが、ゾウの担当に任命されました。みなさんは多分「はな子の担当になっていいですね」と思うのでしょうが、ゾウはその気になれば人を簡単に殺してしまう力を持っています。はな子も2度の死亡事故を起こしています。自然⇔野生動物は、恵みや癒しを与えてくれますが、反面人の命も簡単に奪ってしまう恐ろしい力を秘めているということが、現代人、都会人には見えなくなっていると思います。

今、世の中では『カワイイ』が氾濫していますが、動物に対してもそうです。テレビの『あらいぐまラスカル』を観てアライグマを飼った人が、次第に手におえなくなり、雑木林や公園に捨ててしまう例などは、『カワイイ』しか見なくて、野生というか自然に対する理解が薄れてしまっている証拠です。

僕が、ゾウのはな子の飼育に向き合って、改めて教えられたことは、僕も野生動物も含めて自然であるということ。自然はコントロールできないし、コントロールしてはいけないものであること。自然を甘く見てはいけないこと。自然が見えなくならないよう自然からかけ離れないこと、などですが、それらをひとことで言えば、人は自然に対する畏怖やその尊厳を忘れてはならないことだと思っています。ゾウのはな子は、みなさんの距離感では見えにくい、感じにくいかも知れませんが、そういう意味で私たちに、可愛いさと同時に大自然の畏怖や尊厳を教えてくれる大切な象徴なのです。

室伏三喜男 東京都井の頭自然文化園 飼育展示係主任
聞き手・写真 川井信良 株式会社文伸 代表取締役社長

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(いのきちさん18号 2014年9月1日発行 掲載)