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井の頭公園の生き物たち|第30回「きのこ(菌類)」

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』30号 2016年91日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

縁の下の力持ち

「食べられるきのこ? それとも毒きのこ?」 きのこを紹介したとき、ほとんどの人がする質問です。しかし知ってほしいのは、菌類が自然界で担っている大きな役割のほうです。きのこは胞子を作るために形成されるもの(子実体)で、菌類の本体は地面や枯れ木の中に広がっている菌糸です。

「菌根菌」と呼ばれるグループは、特定の樹木や草本の細い根を菌糸で取り囲んで菌根を作り、共生します。極細の菌糸は植物が土中から水分や養分を吸収するのを助け、植物が光合成で作った有機物の一部を受け取るのです。写真のケショウハツなどベニタケ科の菌類は、ブナ科の樹木などと菌根を作ります。

一方、「腐生菌」と呼ばれるグループは、枯れた植物体を食べて育ちます。その中で、枯れ木を分解するものが「木材腐朽菌」です。木材を構成するセルロースやリグニンは他の生物にはほとんど分解できないのですが、菌類はそれらを分解する酵素を出し、利用するのです。菌糸は容易に分解されるので、木材腐朽菌は、枯れ木や枯れ枝を植物が再利用できる栄養素に分解して土に戻す役割を果たしていることになります。井の頭公園の雑木林が健康に成長でき、持続できるのは、菌根菌と腐生菌のお陰なのです。

とはいえ、菌糸はよく見えないし、見えても区別がつきません。きのこが出て初めて、どんな菌類がいるのか分かります。菌類の偉大な働きを理解した上で、折々のきのこを観察するのが、公園のきのこの正しい楽しみ方だと思います。きのこは形も色も、出る環境も様々です。ケショウハツは桃のようで美味しそうですが、なんとカブトムシのにおいがします。また、ひとつの切り株を継続的に観察すると、いろいろなきのこが入れ替わり生えてきて、切り株が少しずつ分解されていくのが分かります。もちろん、井の頭公園にも食べられるきのこがいろいろ出ます。でも、公園は多くの人が観察を楽しむ場所ですから、きのこ狩りはやめましょう。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』30号 2016年9月1日発行 掲載)

ケショウハツ

土に還る切り株

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