とうきょうの地域教育No.152
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No.152公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事とうきょうの地域教育3今井氏今井氏今井氏今井氏今井氏学生時代、NPO法人ブレーンヒューマニティーで不登校の子供の学びの支援や体験活動に携わり、公文教育研究会を経て、東日本大震災を契機に2011年チャンス・フォー・チルドレンを設立。今井氏が代表理事を務める公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン(以下CFC)」は、経済的に困難を抱える子供たちに学習や文化・スポーツ、体験活動等で利用できる「スタディクーポン」※を提供するほか、様々な理由で体験の機会を失っている子供たちと地域活動を通してつながる活動を行っています。※スタディクーポンについて現金給付ではなく、使途を教育プログラムに限定し、学習塾や習い事、体験活動等で利用できる電子クーポン。地域の4,500以上の教室や団体がクーポンの利用先として参画しており、子供からのリクエストに応じて随時教室等を追加している。今井さんが今の活動に携わるようになったきっかけを教えていただけませんか? 小学生の時、阪神淡路大震災を経験し、神戸で育ちました。大学生の頃、震災をルーツに子供の体験活動を行う学生NPOと出会い、活動に参画しました。東日本大震災をきっかけに、子供たちの学びや体験の機会を支えるために、学生時代の仲間とCFCを立ち上げました。CFCで子供たちに提供している「スタディクーポン※」はどのように活用されていますか? 「放課後の多様な学びや体験の機会を届けたい」という思いで、クーポンは学習だけでなく、スポーツや音楽芸術、キャンプなど幅広く利用できる制度にしていましたが、9割は学習塾に利用されていました。受験期を迎えた中高生を見ていると、幼少期の体験活動の有無が学習等への意欲に影響していると実感する場面もありました。実際、「本当はピアノをやってみたかった」とか、幼少期にやってみたいことを諦めた経験をした子も多くいました。体験活動の機会を通じて、子供たちは学びの原動力を得ていくものです。だからこそ、多様な体験を通じて、自分のやりたいことを見つける機会を作っていくことが大切です。 自分の想像の中だけでは何が好きなのかはわかりません。経験が夢中になれるものを見つけるきっかけになります。そして、夢中になれることが、将来の自分を支えてくれるのです。新型コロナ感染症の拡大とその対策のためにオンラインの環境が整えられて、学習の機会は学校外にも拡がりました。学習の環境にも大きな変化がありましたが、体験活動に関しては、コロナ禍の前と後で違いはあったでしょうか。 オンライン環境の整備によって、学習の選択肢が増えたことは喜ばしいことです。一方で、体験活動の機会は、オンラインという手法だけで埋めることは難しいと感じています。また、コロナ禍や物価高騰の影響で、経済的に苦しい家庭が増え、経済格差が広がっています。体験格差はコロナ禍以前から存在していましたが、経済格差の拡大によって体験格差がより深刻になっています。積極的に体験活動を経験させてあげたいのに、経済的な問題などでできない家庭から、親御さん自身に経験が少なかったり乏しかったりして体験活動の想像がつかないケースもあります。環境の違いで体験活動の機会を失っている子供も多いということですね。こういった子供たちを体験活動の機会を提供する支援等につなげるためにはどのようなことが必要でしょうか? ポイントは人とのつながりではないでしょうか。子供たちが最初に情報を得るのは、学校や教育センターで配布されるチラシなどでの告知です。そういう(子供に関連する)施設に情報を置いておくことは大前提として、学校に行けなかったり、外に行けなかったりなど特に困難な状況にある子供は、あとひと押しがないと活動になかなか参加できません。このひと押しをしてくれる存在にちゃんとアプローチをしていくことが必要です。「やってみようよ」と言ってくれる周りの人たちがいるかどうかは、とても大事ですね。親御さんだけではなく、学校の先生方やスクールソーシャルワーカーの方々など、いろいろな人が関われる環境づくりが大切だと思います。ほかに体験活動の機会をつくったり、周知したりする上で必要なことはどのようなことでしょうか? 親御さんが子供に体験活動をさせてあげたいという思いがあれば、経済的負担を少なくしたり、情報を届ける際に手当てを厚くしたりというところですが、そうではない方々には、生活の自然な環境の中で、体験の機会を埋め込んでいくことです。それは、社会教育や生涯学習の領域ではないでしょうか。例えば、学校もそうですけども、児童館など子供たちが日常的に参加するところ、そういった場の中で地域の方と連携して、申込み不要とか、来たらたまたまやっていたとか、そういった環境を作っていくことによって偶発的にこういうものに触れて、何かあれば行くということを繰り返すことが大事なのかと思います。何かやってみたいことが見つかったり、子供たちが自ら発信したりしてきたときにこういった場所でフォローできる体制があれば、子供たちは地域に活動の場が増えて選択の幅が広がり、体験活動の機会をあきらめずに済むと思います。行政のこの領域でいうと生涯学習の分野、あるいは社会教育の分野における行政の役割はとても大きいと思います。今井さん、ありがとうございました。今井 悠介氏夢中になる体験が自分の未来を支えるInterviewインタビュー

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