とうきょうの地域教育No.152
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氏6No.152千葉大学名誉教授保坂 亨とうきょうの地域教育保坂氏保坂氏保坂氏保坂氏保坂氏保坂氏※1 小野善郎・保坂亨『続々・移行支援としての高校教育』福村出版 (2023) p.266※2 「小・中学校等における病気療養児に対する同時双方向型授業配信を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について(通知)」(平成30(2018)年9月20日)※3 「高等学校教育関係制度の活用状況について」(令和5年3月)保坂氏は長年「不登校」の研究に携わってこられ、「未来きらめきプロジェクト」を企画実施するにあたって助言等をいただく専門委員を務めていただいています。保坂氏が学校を休むということに関心をもつきっかけになった出来事や、専門委員として携わっていただいている不登校児童・生徒に体験活動を提供する「未来きらめきプロジェクト」の意義について、お話をうかがいました。千葉大学名誉教授・教育学部グランドフェロー。東京大学教養学部助手(学生相談所専任相談員)、千葉大学教授等を経て現職。「学校を欠席する子どもたち」など著書多数。保坂先生が不登校に関心を持つきっかけになった出来事を教えてください。 「きっかけ」と言えるかどうかわかりませんが、私自身がよく学校を休んだからです。生来虚弱で病気がちで、入院経験がある小学校6年生のときは「長期欠席児童」(当時は年間50日以上の欠席)でした。この時は盲腸(虫垂炎)の手術で入院しました。中学入学前の3学期だったので、1か月ほど休んでもあまり影響はなかったのですが、その後、中学校から大学まで本当によく休みました。入院等をすると学校を休むわけですから、「不登校」の状態になってしまいますね。 重い病気や長期での入院となれば、院内学級への転籍がなされ、教師の派遣もあるのですが、1、2か月の入院の子供たちは病院内で授業を受けることが難しいという課題がありました。これまで院内学級のある小中学生に比べ、入院中の高校生の教育保障は遅れていたため、一部の自治体では元の学校に籍を置いたまま非常勤の教員を病院に派遣する仕組みを取ってきました。※1 今は「教育相談指導」というかたちで学習支援が受けられるのですが、そういう「ちょっと長めの病気療養」がきっかけで学校に行けなくなった子供もいるかもしれませんね。 現在は、文部科学省が「小・中学校等において、当該学校に在籍する病院や自宅等で療養中の病気療養児に対し、受信側に教科等に応じた相当の免許状を有する教師を配置せずに同時双方向型授業配信を行った場合、校長は、指導要録上出席扱いとすること及びその成果を当該教科等の評価に反映することができることとする。」※2としています。教育現場でもICT化が進んで、病気等で学校に行けない子供にとっても、学習はしやすくなったのではないでしょうか。 確かに、ICTによって学校に行かなくても学習ができる環境はあり、勉強はできますよね。学校に合わないから行かない、という選択をすることもできるようになりました。しかし、学校では勉強をしているだけではないのです。コミュニケーションをとること、身体を使い、何かを集まってやること、なども学校で行う学習です。まさにこれが体験学習で、何らかの理由で学校に行けない子は体験学習の場を失っているといえます。そういう意味で、「未来きらめきプロジェクト」は、東京都教育委員会が不登校の児童・生徒が本来得られたはずの体験学習の機会を提供することになるわけですね。 「未来きらめきプロジェクト」は若者・子供支援のNPOと連携して、体験活動プログラム(自然体験・野外活動、スポーツレクリエーション、芸術活動など)を提供し、その費用を負担するということが画期的といえます。全国的にみても、昨年度に引き続き、継続して予算化されたことは注目に値します。 ちなみに、文部科学省の調査※3では、ボランティア活動を単位認定した高校が100校以上報告されており、小中学校のみならず高校においても学校外での活動の重要性が高まっているように思います。こうした流れも踏まえて、より議論が進むことを期待しています。昨年度、「未来きらめきプロジェクト」の参加者の中で、野外活動に参加した子供たちにもインタビューをしていただきましたが、その際の子供たちの様子などを教えてください。 野外での活動や知らない子供たちとの共同作業を含む活動は、どんな人でも体力的・精神的負荷が高く、大変なのではと心配していたのですが、子供たちは元気いっぱいでした。段階を踏んで、とか準備をして、と考えていたのですが、体験してしまえば「楽しかった」、という意見が多かったのです。他に印象的だったことはありますか? 2016年「義務教育段階における普通教育に相当する教育の機会の確保に関する法律」が公布され、これによって「不登校」は問題行動ではないとなりました。インタビューした親子からは、こうした「不登校」に対する認識の変化を感じました。保坂先生ありがとうございました。不登校の子供たちと体験活動についてInterviewインタビュー

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