井の頭公園の生き物たち|第28回「クロダハゼ」

2018.04.13

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』28号 2016年51日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

最近名前が変わったハゼ

ハゼ科ヨシノボリ属の魚で、井の頭池の在来種です。つい最近までトウヨシノボリと呼ばれていました。“ヨシノボリ”とは葦(ヨシ)を登る魚という意味でしょう。底生生活をするハゼには左右の腹ビレが合着した吸盤があります。この魚は池底だけでなく水草にもしばしば吸い付いています。研究が進み、トウヨシノボリは複数種に分けるべきということになり、関東平野に分布していた種類はクロダハゼという名前になりました。“ヨシノボリ”が消えたのは残念ですが、この名前は、この魚がトウヨシノボリと同種とされる前に付いていた名前なのだそうです。

石の下などに産卵し、オスが卵を守ります。孵化した仔魚は普通はいったん海に下りますが、一生池で生活する陸封型もいます。井の頭池のクロダハゼを4匹、かつての西園プールに放したら、3年後には2百数十匹に増えていました。ひょうたん池の保護いけすでも繁殖し、数が増えました。

井の頭池のクロダハゼは近年大きく数を減らしました。オオクチバスなどの外来魚と下流域にしかいなかった同じハゼ科のヌマチチブが増えたのがおもな原因です。より大きく強いヌマチチブに隠れ場所を奪われ、オオクチバスに捕食される、ということが起きたようです。

かいぼり25では外来魚を駆除し、捕れたヌマチチブは弁天池に移しました。ところが、かいぼり27の結果は意外なものでした。かいぼり25をしなかった弁天池ではクロダハゼがヌマチチブよりずっと多く獲れ、かいぼり25をした池ではその逆だったのです。自然はなかなか人間の予想通りにはなりません。

かいぼり27ではヌマチチブも国内外来魚とされ、外来魚の駆除がより徹底して行われました。はたしてクロダハゼの数は回復するでしょうか。誰からも見えるコイがいなくなり、池が寂しくなったと言う人がいますが、池の中では魚たちのドラマが進行中です。それを想像できるようになれば、井の頭池は俄然面白くなります。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』28号 2016年5月1日発行 掲載)

腹ビレが吸盤に


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