井の頭公園の生き物たち|第34回「キランソウ」

2018.05.04

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』34号 2017年51日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

土中に眠る歴史

シソ科の多年草で在来種です。珍しい植物ではないのですが、現在の井の頭公園では希少種です。地面に張りつくように生えるため、他の草に光を遮られる場所では生きられません。頻繁に踏みつけられる場所でも無理です。園路と草地の境目に生えているのを時々見かけますが、長続きしません。草刈りが地表ギリギリまで行われるため、キランソウでさえ刈られてしまいます。根に蓄えた栄養で再び葉を広げても、草刈りは年に3度ほど行われるため復活できないのです。

そんなキランソウが昨年、井の頭池の北側の一角に70株以上生えてきました。そこは公園による草刈りが行われていた場所で、さらに我々が、草刈りでは根絶できない外来種のトキワツユクサを丁寧に除草し、池から駆除したアメリカザリガニの一部を土に還していた、つまり土を肥やすために埋めていた場所でした。土が掘り返されたことで埋土種子が地表に現れ、日光を遮る草も無くなっていたため発芽・生長したのでしょう。かいぼり後の井の頭池に何種類もの水草が生えてきて人々を驚かせたのと同様のことが地上でも起きたのです。

せっかく復活したこの草を再び絶やさないため、井の頭かんさつ会はこのエリアの管理を任せてもらい、どの程度の除草や世話が必要かを知るためのテストを行っています。

井の頭公園では、笹刈りが行われたり土が掘り返されたりした場所に、近年見かけなくなっていた植物が生えているのに気づくことが少なからずあります。我々はキランソウのほかにも、ジュウニヒトエや、ホタルブクロ、オトコエシなどを見つけ、草刈りや盗掘などから守る処置をしています。御殿山に一昨年ごろ復活したフジバカマも、誰かが種を蒔いたり植えたりしたのではなく、笹刈りをした場所に自然に生えてきたものだと聞いています。土の中には井の頭恩賜公園100年間の遺産が、もしかするとさらに前の時代からの遺産が、まだいろいろ埋まっている気がします。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』34号 2017年5月1日発行 掲載)

生えてきた株

ジュウニヒトエ


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