井の頭公園の生き物たち|第23回「クサガメ」

2018.03.27

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』23号 2015年7月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

微妙な立場

甲羅に盛り上がった縦筋が3本あること、首筋に黄緑色の複雑な模様があることなどがクサガメの特徴です。ただし、老熟したオスは全身が真っ黒で、メスほど大きくなりません。上の写真のクサガメは、ひょうたん池に住み着いているメスです。甲羅にかつての生息調査で明けられた孔があるので個体識別が可能です。

この135番さん、ひょうたん池に設置しているアメリカザリガニ捕獲ワナに頻繁に入ります。ワナの中のザリガニを食べるためです。人間に捕まってもすぐに放してくれると分かっていて、繰り返し入るのです。漢字で書くと「臭亀」で、危険を感じると四肢の付け根から臭いにおいを出すのですが、135番さんは今や捕まってもまったくにおいを出しません。安心しきっているのです。

昨年の秋、ワナに入った大切な在来種まで食べてしまうのに困り果て、ほかの池とは仕切られている弁天池に放したことがあります。ところが、翌々日には再びひょうたん池のワナに入っていました。では神田川源流の堰は上がれるのかと水門橋の直下に放してみたら、雨で水量がとても多い日だったため、下流へと流されていってしまい、二度と戻って来ませんでした。しかし、今年の4月にザリガニワナの設置を再開したら、さっそく135番さんが入っていたので驚きました。

とても賢く、ファンも多いクサガメですが、じつは今、微妙な立場にあります。長い間日本古来のカメだと考えられていたのに、最近の文献調査と遺伝子解析で、江戸時代後期に朝鮮半島から連れてこられた外来種であることが判明したのです。関東地方には1970年代に中国から輸入された系統も生息しているそうです。

外来生物法では、明治以降に日本に持ち込まれた生物を外来生物としているため、江戸時代ならぎりぎりセーフです。しかし、何より困るのは在来種のニホンイシガメと交雑することで、イシガメを守りたい場所ではクサガメを除去する取り組みが始まっています。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

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(『いのきち』さん23号 2015年7月1日発行 掲載)

クサガメのメス

クサガメのオス


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