井の頭公園の生き物たち|第24回「カラス」

2018.03.30

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』24号 2015年91日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

2種のカラスと、人間が変えた暮らし

井の頭公園には2種類のカラスがいます。「ハシブトガラス」と「ハシボソガラス」です。ハシブトはその名の通りくちばしが太く、カーカーと澄んだ声で鳴きます。ハシボソはくちばしが細く、やや小柄で、お辞儀をしながらガーガーと濁った声で鳴きます。

じつは10年ほど前まではハシブトばかりで、数も今よりはるかに多数でした。元々は森林に住んでいた彼らは樹林のある公園を好み、そこをねぐらや営巣場所にして、市街地や住宅地へ餌を採りに通っていたのです。大量の生ゴミが路上に無防備に出されていた時代です。井の頭公園でも、ゴミ箱から溢れた弁当の残りや、来園者がコイやカモに投げるエサを得ることができました。自然の餌ももちろん食べるので、増えすぎたハシブトガラスは他の生き物の大きな脅威でした。例えばカルガモは、ヒナが毎日1羽のペースで減っていたのです。

2010年ごろから、早朝にハシボソガラスの姿を見かけるようになりました。開けた場所を好む彼らは鉄道の沿線や川沿いの広場などにいたのですが、しだいに行動域を広げ、ついに井の頭公園まで進出したのです。今では池の周りや西園を中心に、毎日姿を見ることができます。ハシボソが進出できたのは、競合するハシブトが減ったからです。生ゴミの出し方が改善され、公園は2003年4月でゴミ箱を廃止、2007年3月にはエサやり自粛運動を始めました。得られる餌が激減したため、ハシブトガラスはやがてそれに見合う数に落ち着いたのです。

カラスの減少はその被害に頭を痛めていた人間にだけでなく、他の生き物にもプラスになりました。カルガモのヒナは減り方がゆるやかになり、無事育つものも現れました。カラスはとても賢い鳥なので、観察していて飽きません。2種類のカラスがいれば、その違いや関係なども観察できます。2種類のカラス、カラスと人間、そして他の生き物が共存できるかどうかは、我々人間の行いしだいです。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』24号 2015年9月1日発行 掲載)

ハシブトガラス

ハシボソガラス


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