井の頭公園の生き物たち|第8回「ツグミ」

2018.02.02

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』8号 2013年1月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

代表的冬鳥

見かける機会が多く、季節を感じさせてくれる、という意味で冬鳥の代表です。シベリアなどで繁殖し、晩秋に群れで日本海を越えて渡って来ます。サハリンなどの島伝いに来るルートもあるそうです。渡来数が多い上に行動範囲が広く、開けた場所を好むので、公園内に限らずよく見かける鳥です。寒さにうつむいて歩いていても、「クイッ、クイッ」と軽快に鳴いて飛んでいくツグミに気づきます。全長は約24cm、派手な色彩はありませんが、模様にそれぞれ個性があり、なかなかオシャレです。

木々に実が付いている間はそれを食べ、その後は地上で採食します。公園の茂みで、くちばしで落ち葉をはねのけて虫を探しているのを見かけることもありますが、真骨頂はやはり開けた場所での採食です。前のめりにツツツと走ってはピタリと止まり胸を張る、という動作を繰り返しながらミミズや昆虫を探します。愛らしいしぐさですが、胸を張るのは、できるだけ目線を高くして虫の居場所や周囲の安全を確認するためでしょう。

そんなツグミには受難の時代がありました。尾根筋にかすみ網を張り、渡って来た群れごと捕獲する猟が行われたのです。当時の捕獲数は一説には年間数百万羽とも言われます。1947年に捕獲が禁止された後も密猟が続きました。今後の脅威は、開発や地球温暖化による繁殖地の変化でしょう。渡り鳥にとっては、繁殖地も滞在地も、渡りのルートも健全でなければなりません。

井の頭では4月にはほぼいなくなりますが、5月まで残っているものもいます。渡去前の晴れた日、ツグミがさえずりの片鱗を小声でつぶやいていることがあります。繁殖地での本格的なさえずりを聴いてみたくて英名や学名で動画サイトを検索してみたのですが、そのような動画は見つかりませんでした。繁殖地にはまだITが及んでいないのかもしれません。でも、地球温暖化の影響はすでに及んでいるのではないでしょうか。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』8号 2013年1月1日発行 掲載)


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