井の頭公園の生き物たち|第10回「オオクチバス」

2018.02.09

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』10号 2013年5月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

悪者は人間

悪名高き北米原産の肉食魚。別名のブラックバスは他のバスも含む総称です。井の頭池でも全長50cmになるものがいます。大きなヒレで猛ダッシュして獲物に襲いかかり、大きな口で丸呑みします。そのせいで、在来の小魚やエビ、水生昆虫が激減してしまいました。子ガメや水鳥のヒナも犠牲になります。在来水生生物の激減は、それを餌にするカイツブリなどの生息も難しくしました。

メスの卵巣は前年の秋には発達していて、井の頭池では桜の花が終わるころ他の魚に先駆けて繁殖を始めます。砂礫底にオスが産卵床を掘り、メスを誘って産卵させます。オスは卵が孵化し稚魚が十分大きくなるまで付っきりで守ります。そのため大部分の卵が稚魚に育ちます。1匹のメスが産む卵は数千から数万個と言われます。

バスが多くの卵を産み稚魚まで守る習性を進化させたのは、原産地には多くの強力な天敵がいるため、そこまでしないと子孫を残せないからです。そんな能力を持つ魚を天敵がほとんどいない日本に持ち込んだため、日本の生態系は壊滅的な打撃を受けたのです。

オオクチバスを最初に日本に移入したのは武蔵野市に住んだ赤星鉄馬という著名人ですが、今、井の頭池で繁殖しているバスを池に持ち込んだのは、ここでバス釣りをしたいと考えた身勝手な誰かです。外来生物法で特定外来生物に指定され飼育も運搬も放流も禁止された今でも、密放流事件が全国的に起きています。

バスは放された場所で能力を最大限に発揮して懸命に生きているだけです。バスに罪はありません。とはいえ害があまりにも大きいので駆除せざるを得ないのですが、そういう意味ではバスも被害者です。真の悪者は持ち込んだ人間であることを忘れてはいけません。井の頭池の外来魚は今後のかいぼりで一掃される予定です。その後に再び密放流されないよう、夜でも来園者が不審者を見つけて110番通報すれば警察が直ちに出動する体制が整いつつあります。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』10号 2013年5月1日発行 掲載)

オオクチバス

子どもを守るオオクチバス
(茶色のつぶつぶはみんなオオクチバスの子供たち)


← 第9回「タンポポ」

→ 第11回「ブルーギル」